お宝・その4<ナオミ君、サトシ君編>

アルル、タラスコンと周り、アヴィニヨンに戻ってきた。私もアキオも、アルルやタラスコンの雰囲気に違和感を感じていた。
だからアヴィニヨンに戻ってきた時は嬉しかったけれど、それとは別に、私の直感が「何かいいことがある」と告げていた。
今思うと、それはきっと、彼らとの出会いのことだったのだと思う。

日曜の朝、マルシェでの買い物を終え、遅い朝食のためにマックに立ち寄った。そろそろ食べ終わる・・という頃になって
2人の日本人男性が近くの席についた。同じくらいの年齢・・・だろうか。アキオ以外の日本人と、ずっと話していない。
私はどうしても話がしたくなって、旅行者には見えなかったけど「お食事中すみません。ご旅行ですか?」と声をかけた。
彼らは「僕たちは料理の勉強で、こっちに住んでるんです。」と言う。ナオミ君は渡仏して2年目、サトシ君は5ヶ月だという。
サトシ君が休みを利用して、ナオミ君のところに遊びに来たのだそうだ。
同じくらいの年齢かと思ったら、私たちより5歳も若かった。驚いた。すっごい、しっかりしてる。
話は弾み、気付くと小1時間も話し込んでいた。今夜ナオミ君のアパルトマンで夕食をご馳走してもらうことになった。
マルシェで買ったばかりの野菜は、4人で食べるにも十分な量がある。でも野菜しかないので、肉か魚を買おうと
急いでレ・アル(中央市場)に行き、アパルトマンの場所を教えてもらい、ひとまず別れた。

キャンプ場に帰る道すがら、おもしろい出会いもあるものだねぇ、とアキオと話した。料理についても教えてもらったけど
プロヴァンス料理を覚えたい、と思っていたから、シェフ修行中の彼らと出会ったのだろうか。とにかく、ウキウキするね。
18時、ナオミ君のアパルトマンへ。着くと先客がいた。女の子が2人。賑やかにしようと呼んだのかな?彼女たちは
アヴィニヨン大学の語学講座の受講生。日本でも大学生。10ヶ月のカリキュラムで、こちらで勉強した分も日本の大学の
単位になるシステムなんだそうだ。羨ましいなぁ。フランス留学、それもプロヴァンスに。私も留学費用を貯めていたら
アキオと知り合って結婚しちゃったんだよね・・。まぁそれはそれでいいけど。
それはさておき、ナオミ君とサトシ君は既にキッチンに立っている。ナオミ君は白いカフェエプロンの長いやつをしている。
凛々しい。さすが、様になっている。そして何より外の階段にまで漂うこの香り!はしたないけどお腹の虫が鳴り出しそう。
彼らはテキパキと下ごしらえをし、まだ時間が早いので、と料理を中断し会話に加わった。
19時になると女の子たちは帰ってしまった。たまたま遊びに来ただけなのだという。2人のコックさんは料理を再開した。
私は・・見るだけ。だって、手伝うことなんて何もないんだもん。出来上がった料理は、見るからに美味しそうで、あの材料が
こうなるのかと唸ってしまった。
マグレ(鴨肉)をミディアムに炒め、エシャロットをワイン、フォン・ド・ボー等で煮たソースがかけてある。マグレを炒めた時に
出た油で揚げたポテト。ネギを芯までやわらかく茹で、マスタードベースのソースをかける。本当にネギ?ってくらい美味しい。
ワインは、コート・ド・ヴァントゥーだ。

「お疲れ様ー!」と日本式に乾杯し、料理を頂く。美味しい。ほんっとうに美味しい。それしか言葉はないね。さらに料理は続く。
トマトを湯剥きし種を取り、塩、コショウ、ローリエ、エルブ・ド・プロヴァンス、ローズマリー、タイム、オリーヴオイルをかけて
80℃という低温のオーブンで3時間(!)焼く。手の込んだ一品。舌がとろけるよ〜。ズッキーニもナスも、これまた美味しい。
マルシェで買い物してた時は、こんな夕食になるなんて思ってもみなかった。旅って、不思議。
メロンとイチゴ、チェリーもサトシ君がきれいに、豪華に盛りつけてくれた。私が「そんな手間かけなくてもいいよ―。」と言っても
「このくらい、手間でも何でもないですよー。」と、さらりとやってしまう。さすが、さすが。
彼らとの話は深夜に及んだ。私たちには見えない、戦場と化した調理場のこと。仕事に対する不安や迷い。在仏の大変さ。
でもそれ以上にほとばしる、料理に対する情熱・・。アキオも同じ職人のためか、いつもより熱くなって持論を述べている。
こんなに大変な思いをしてフランスにいるんだもん、実年齢より上に見えたのも納得。苦労してるんだ・・。
料理は「美味しい」だけじゃないんだなぁ、と思ったけれど、彼らは「美味しいだけでいいんですよ!それが一番嬉しいんです」
と笑って言う。その顔は「シェフの卵」ではなく、「シェフ」の顔だった。

いろいろな話をし、連絡先を交換し、また会う約束をしてテントに戻った。午前1時半をまわっている。初対面ということを忘れ、
ずいぶんいろんな話をした。旅は、いろんな出会いがあるね。シュラフにもぐると、酔いが心地良く眠りを誘った。


彼らとの交流のすべてを書くつもりはないし、その必要はないと思う。なにより出会いが強烈だったから。
2人は今でもフランスで頑張っている。実名で出してもいい、と言われていたので実名で書かせてもらいました。
2人の現在働いているお店を紹介しますので、お近くに行かれた時は寄ってみてはいかがでしょう?
(ちなみに私のHPを見た、と言ってもサービスは無理ですよ、きっと!(笑))
ナオミ君・・Avignon(アヴィニヨン)のChristian Etienne(クリスチャン・エティエンヌ) 教皇庁のところ
サトシ君・・Aix-en-Provence(エクス)のYAMATO(ヤマト)